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大間の天妃様行列

上田貴子

 日本の本州最北端の町、そして世界的なブランド力を誇るマグロの水揚げ地である大間では7月海の日に「天妃様行列」が行われている。なお大間町には複数の神社があるが、この祭祀が行われるのは大間漁港に近い大間稲荷神社である。この神社には主祭神とは別に天妃神拝殿が境内にあり、ここに祀られている天妃の神輿を擁しての祭事である。この日、大間稲荷神社では朝から大漁祈願祭が行われている。お神楽の囃子がひびくなか、大漁旗をはためかせた漁船が「御召船」として稲荷神社の大漁祈願のお札を沖に出て海に奉納する祭事を行う。


御召船とそれに続く漁船たち(2023年7月17日上田撮影)

 そのあと、天妃をのせた神輿とそれに従う順風耳・千里眼・仙童・哪吒太子爺・土地公・済公といった従者と龍舞が町内を練り歩くというものである。


天候を気にしながら勢ぞろい(2023年7月17日上田撮影)

 地元の記録によれば1696年(元禄9年)に名主であった伊藤五左衛門が、常陸国那珂湊から天妃像を勧請してきたとされる。そこからちょうど300年を記念して、1996年(平成8年)からこの天妃様行列が行われるようになった。大間町観光協会の説明によれば、それまで30年近く続いてきたマグロの不漁が一転したとされ、これも天妃様のご加護ではないかと言われている。大間町商工会で聞いたところによると、全国的には漁業の就業人口が減る中、大間ではマグロ漁船による近海マグロ漁の経済効果はすばらしく、漁師人口も増えているという。
 また、天妃様行列を一目見ようと、町外からも観光客が訪れていた。印象的だったのは、日本にくらす台湾人の参列者の存在である。青森県下に暮らす台湾出身者、東京媽祖廟の信者の方々が参列していた。1996年の祭事の開始にあたって、観光協会は台湾北港の媽祖廟の支援をうけ、行列のための飾りや被り物をそろえた。ちなみに、この貴重な祭礼具は大間では簡単に修理ができないことから、雨が降ると天妃行列は飾り付けの展示のみで、練り歩くことができない。残念なことに雨模様のため2023年も飾り付けのみであった。


フェリー乗り場での展示(2023年7月16日上田撮影)

 本州最北端というと交通の便が悪いかの印象をうけるが、実は大間町へのアクセスは函館港からフェリーで90分、函館と大間の距離感はとても近い。夏休み時期であれば1日3便の往復がある。さらに函館へは函館空港を利用することで、各地からのアクセスも一気に近くなる。函館には台北からの国際線が毎日就航している。大間町の観光情報サイトには日本語・English・中文(繁體字)が用意されている。大間町は天妃様のご加護のもと、マグロの大漁だけではなく、海の向こうの観光客も引き寄せているのである。