マレーシアの夜市 pasar malamを歩く
マレーシアでは曜日ごとに場所を変えて様々な市が立つ。
たとえば、早朝から新鮮な野菜や生肉、朝食などを販売するのは農業市 pasar tani で、夕方から夜にかけて道路を封鎖して立つ夜市 pasar malam は日本の夏祭りのように賑やかだ。
都市部から離れた小さな町では、スーパーマーケットでは生肉の取り扱いがなかったり品揃えも少ないため、市場は新鮮な食材や儀礼祭祀に用いる線香や供物、装飾品、日用品を入手し、流行の食べ物や商品など新しい情報に触れる生活に欠かせない場所である。
マレーシアは多民族社会であり民族集団や信仰する宗教ごとの食の禁忌があるが、市場ではゆるやかに多様な人、モノ、情報が混在する。
ワゴン車のトランクに鮮魚を詰め込み運んできたマレー人の行商人が簡易な台にマナガツオや貝類などを並べて販売する姿があると思えば、こちらでは米粉から作った生の平麺をもやしや卵、エビ、ニラなどを中華鍋に入れてリズミカルに炒めて作るチャークイティアオ(炒粿条)が香ばしい匂いでそぞろ歩きの人びとの鼻腔をくすぐる。
華人が調理する屋台であれ、マレー人が売る魚であれ、様々な人が欲しいものを買い求める様子はエネルギーに溢れている。
菓子を売る小さな屋台を覗いてみよう。
商品台の上にある餃子のような形をしたものはカレーパフ (kari pop) だ。
クミンやガラムマサラなどのスパイスで味付けしたカレー味のマッシュポテトにゆで卵をいれてパイで包んで揚げたもので、インドのサモサに似た軽食で国民的な人気がある。
その隣にあるのはアンクークエ(紅亀粿)と呼ばれる緑豆の餡入りの餅菓子で、台湾やベトナムなどでもみられる儀礼祭祀の供物として用いられる中華菓子だが、日常的なおやつとしても人気がある。
右端の紫色のお菓子はマレー人と中国人の通婚によって生じたプラナカン(peranakan) の食文化、クエニョニャ( kuih nyonya) の一種である。
クエニョニャは目にも鮮やかな色彩とココナツミルクや香り付にパンダンリーフを使った中華菓子とは味わいの異なる菓子である。
行き交う人びとだけでなく、販売されているモノも様々な文化が混成した結果であり、マレーシアらしい風景を作り出している。