シンカワンのローカルな精霊は「異民族」風
インドネシア西カリマンタン州シンカワン市は「Kota Seribu Kelenteng」(幾千もの寺院のある町)という異名がつく、カリマンタン島(ボルネオ島)西部の地方都市である。その名の通り、赤やピンク、緑など極彩色で彩られた中国寺院があちこちに見られる。一般家庭の庭には、天公を祀る祭壇が作られており、19世紀中国より持ち込まれた民間信仰が息づいていることが感じられる。
時に家屋や寺院の内外に、黒や赤、黄色で彩られた祠が設けられていることがある。先住民族であるダヤック族風の人物が描かれた肖像画とともに壺が置かれていて、中国や台湾でポピュラーな神々や、中国名をもつ現地の神々とは趣を異にしている。
聞けば、「ラトッ」を祭る祭壇だという。ラトッとは、華人を取り巻く周辺民族のダヤック族やムラユ人を起源とする精霊だそうだ。ラトッを祀る祭壇には、白い蝋燭にクメニャンという安息香と、ラトッの好物であるクエ・チュチュールという編笠型の菓子が捧げられている。
近年、このラトッに憑依される若者が増えているという。ある人は、1960年代以降、断続的に続いている民族紛争の犠牲者の霊魂が人間界に漂っており、それがラトッなのだという。その真偽は確かめようもないが、西カリマンタンの民族関係が華人の民俗宗教に大きな影響を与えていることは確かなようである。