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2019年度 日本華僑華人学会研究奨励賞選考に関する報告

2019年度の「日本華僑華人学会研究奨励賞(論文部門)」は、研究奨励賞選考委員会による厳正な選考の結果、下記の推薦に基づき、理事会にて受賞者が決定されました。なお、単行本部門は該当者なしでした。

 

[受賞者と対象作品]

辺清音(2018)「都市空間におけるチャイナタウンの再開発―神戸市南京町の中華表象生成を中心に」『華僑華人研究』15号

 

〔授賞理由〕
本論文は1970年代初期から1980年代中期までの神戸市南京町商店街環境整備事業を事例として、戦後の日本の都市空間におけるチャイナタウンの中華らしい環境整備を中心とした再開発過程を、「空間の社会的生産」という視点から明らかにした力作である。
1980年代以降、都市空間論の視点からチャイナタウンを考察する研究がすでに現れているが、本論文は南京町の再開発の過程を、「空間」をめぐる多様な主体の実践の過程=「空間の社会的生産」として捉え、考察を進めている。多様な主体がそれぞれの政治的、経済的目的を達成するために実践するなかで、南京町の多様性がいかに中華表象に収斂され、「多から単一へ」と変化したのかを、具体的かつ詳細に描き出すことに成功している点で大いに評価される。
惜しむらくは、これまで欧米のチャイナタウンを対象としてきた「空間の社会的生産」という視点を日本の事例に適用して分析することによって、どれだけ新たな知見が加わったのかという点については、説明が十分だとは言えない。それを明確にすると、1970年代初期から1980年代中期までの南京町の再開発の過程を本論でなぜ取り上げたのかという意義も明らかになったのではないか。そして、著者本人が「おわりに」で今後の課題として挙げているが、欧米や日本におけるチャイナタウンの「空間の社会的生産」という視点が、東南アジアなど他のチャイナタウンの再開発事例に適用できるのかについても、何らかの示唆を提示できたのではないか。
また、関係者による南京町のまちづくりが話し合われ始めてからすでに40年以上が経とうとしており、各種の困難を乗り越えたうえで開発された中華表象の空間は、果たして、関係者にどのような社会的影響や経済的効果を及ぼしているのか、特に、南京町の住民にとり、コミュニティのアイデンティティはどのように再構築された/されていくのか、明らかにする必要があろう。
このように、課題は残すものの、本論文は日本の中華街や華僑華人コミュニティの再編を考察するうえで新たな事例を提示しており、ホスト社会との相互作用を考えるうえでも貴重な手掛かりを示している。
以上のことから、辺清音氏に2019年度日本華僑華人学会研究奨励賞(論文部門)を授与することを、日本華僑華人学会研究奨励賞選考委員会による厳正な議論を経て、推薦する次第である。

2019年9月27日
日本華僑華人学会研究奨励賞選考委員会
曽士才(委員長)、張玉玲、陳來幸、山本須美子
(文責: 曽士才 研究奨励賞選考委員長)